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はじめに
2004年の国民生活基礎調査によると,高齢者が問題と感じている症状(有訴率)のうち,最も多いものは男女とも「腰痛」で,男性では16%,女性では21%である.また,これに続く症状も「手足の関節の痛み」であり,男性では10%,女性では18%を占めている1)(図1,2).したがって,客観的な障害はともあれ,高齢者が自覚している生活上の問題として,痛みの影響は大きいと考えられる.しかし従来,痛みは加齢に伴う変化であり不可逆的なものとして捉えられ,変形性膝関節症などの治療を必要とする状態になるまで,積極的な対策がとられてこなかった.その結果,関節の痛みや身体の虚弱化,転倒骨折など加齢に伴う身体機能の低下が,要介護状態の原因の多くを占めている1)(図3).特に,軽度要介護者ではこの傾向が顕著である(図4).一方,高齢者に対する筋力増強運動などの効果が示すように,痛みも含めた加齢に伴う身体機能の低下の多くは,使わないことによって起こる廃用症候群を背景としており,理学療法士などが介入し,適切なトレーニングを行うことによって,不可逆的なものではなく可逆的であることが明らかになってきた.
現在,高齢社会への対応として,生活習慣病を予防するためのメタボリック症候群対策が幅広く行われようとしている.しかし,前述の要介護高齢者の実態からすると,生活習慣病の予防,すなわち疾病予防に加えて,高齢者の活動・参加を阻む要因(痛みなどに代表される加齢に伴う身体機能の低下)への対策が必要と考えられ,また健康寿命を延伸させる観点に立てば,その優先順位は生活習慣病予防に比べて高いと思われる.
このような状況にあるにもかかわらず,本邦においては高齢者を対象とした痛みに関する調査研究は少なく,存在するものでも横断的な研究に限られ,高齢者を長期的に追跡する縦断研究はほとんど行われていない.したがって,臨床的判断に必要な基本情報が十分にあるとはいえない状況である.たとえば,一度生じた痛みは永続的に続くのか(自然経過),痛みが高齢期の日常生活,ここで言う活動・参加に影響を与えるのか(痛みによる活動制限)など,不明な点が多い.そこで,本稿では,筆者らの関与している東京都老人総合研究所の65歳以上を対象とした「中年からの長期縦断研究」の一部である,農村部から得られたデータを分析しながら,高齢期の痛みとその生活への影響について考察する.さらに,痛みのマネジメントに関する海外のガイドラインも紹介し,理学療法士が関わるべき高齢者の痛みについても述べる.ただし,悪性新生物や神経疾患,その他特定の精神疾患においても痛みが主訴となることがあるが,これらについては治療法との関連が深いため,本稿では言及しない.
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