講座
寒さの人体に及ぼす影響
高橋 英次
1
1東北大
pp.46-53
発行日 1956年11月1日
Published Date 1956/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201158
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寒さということについて
寒さというと,季節的には冬,地理的には熱帯より寒帯に近い地方のことが考えられる.概して気温の低いことを意味するが,然し——暑さについても同様であるが——気温だけでなく空気の湿度や気流即ち風の強さなども,寒いという感じには可なり影響する.摂氏の5度なら5度という気温でも,風のある場合とない場合とでは,感じられる寒さの程度に大きな違いがあることは誰でも経験していることである.木枯しの吹く戸外から家の中に入つてくると暖房はしてなくとも寒さが和らぐのを感ずる.又同じ気温の5度の場合でも太陽が出ていて,光線が直接からだに当つている場合と,日影に居る場合とでも随分と違う.太陽の輻射線である赤外線が我々のからだを直接温ためているからである.寒さというものは,結局我々のからだをとりまく環気の温度だけでなく,気温,気流,更に熱輻射等の因子の綜合された,人体に対する冷却力を意味することになる.
又一方寒さは或る程度相対的なもので,同じ温度の室でも,場合によつて寒いと言う人があるかと思うと,温いと感じている人もある.道路を急いで歩いて来たり,激しい労働をして来たりすると,身体が温まつており,甚だしい場合は冬でも汗ばんで居り,温度の低い室でも暫くは寒いと感じないで居る.処が着物も少く長い間その気温の低い室に待たされている人は寒いと訴える.
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