特集 「注意」の障害に対する理学療法
高齢者の「注意」の低下に対する理学療法―転倒予防およびADL指導における阻害因子としての不注意行動に対する行動分析学的アプローチ
小林 和彦
1
,
園山 繁樹
2
,
伊藤 智
3
Kobayashi Kazuhiko
1
1筑波技術短期大学理学療法学科
2筑波大学心身障害学系
3筑波大学人間総合科学研究科
pp.1059-1065
発行日 2003年12月1日
Published Date 2003/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551100933
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「注意」という言葉によって表される現象は多様な側面を持っているため,その概念を厳密に定義することは困難であると言われている1).理学療法の臨床においては,「注意の低下」は一般的に以下に示す2つの事象を引き起こす確率を高める心的および認知的状況という意味合いで用いられることが多い.一つは,転倒もしくは転落であり2),もう一つは,学習における注意機能の重要性から3,4)理学療法場面における指導的な介入が機能しにくく,目的とされる動作や行動が学習されにくいということである.また,注意の低下をきたす原因は,加齢による感覚機能の低下や痴呆などの内的な要因だけではなく,能力の低下を補完すべく適切な環境刺激の不足もしくは欠如といった外的な要因も大きく関与すると考えられる.特に,注意を行動としてとらえた場合,注意を伴わない行動,すなわち不注意な行動が介護者やセラピストによる不適切な対応により無意識のうちに学習され,転倒要因となっている可能性も少なくなく,対応や指導のあり方に関する検討が重要となる場合も多い.しかしながら理学療法の現状においては,バランス感覚や筋力などの身体機能に対するアプローチが中心であり,注意力の低下に対し系統的な介入がなされることはまれである.
そこで本稿においては,「注意」を具体的な「注意行動」としてとらえ,行動分析学の枠組みから痴呆を有する高齢障害者の不注意行動が増加するメカニズムについて考察する.また,転倒予防の観点から,トランスファー課題における不注意行動の変容を目的とした行動分析学的なアプローチの適用について具体的事例を通して解説する.
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