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近年,画像診断技術の進歩に伴い,脳科学の分野における新しい研究成果が数多く報告されている.理学療法と関連した分野では,脳傷害後に運動学習によって大脳皮質に生じる可塑的変化との関係が明らかにされつつある.Nudらによって,成熟脳でもトレーニングによって皮質運動野に可塑的変化の生じることが初めて実証された研究1)は特に重要である.これ以降,この「使用頻度に依存した再構成(use-dependent reorganization)」の考え方に基づいて考案された脳卒中患者に対するconstraint induced movement therapy(CI therapy)や,トレッドミルを用いた早期(部分免荷)歩行トレーニングの有効性について数多く報告されている.わが国でもfull-time integrated training program(FIT)のように高強度・高頻度のリハビリテーションを提供することで,より大きな機能回復につながることが示されている.
さらに,わが国でも徐々に導入されつつある脳卒中ユニット(stroke unit)における多角的なチームアプローチによるリハビリテーション環境の有効性については,無作為化比較対照試験の結果により証明され,国際的にもコンセンサスが得られている.脳卒中ユニットの有効性は,歩行能力,日常生活活動,自宅復帰率,在院日数,医療費,生存率について認められている.この脳卒中ユニットは,理学療法室におけるADLと病棟とのADLに差がないこと,家族への指導・教育が積極的に行われること,などの特徴をもっている.その根拠として,運動・練習の効果は介入量に応じてその介入した課題に特異的に認められることが示されている.このように理学療法の分野にも新しい脳科学における研究成果の一部は徐々に取り入れられつつある.しかし,脳科学の研究知見が,理学療法のような治療実践に具体的に応用され,かつそれが体系化されるまでには,さらにまだ多くの時間が必要であろう.
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