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はじめに
末梢循環障害は理学療法士が臨床で接することの多い疾患群である.動脈閉塞や糖尿病壊疽による下肢切断がその代表であるが,糖尿病壊疽に対する切断術回避のための運動療法,慢性動脈閉塞患者の下肢虚血に対する理学療法,静脈性浮腫,リンパ浮腫に対する理学療法も,それぞれを専門とする科を持つ医療機関では扱うことが多いと思われる.さらに下肢の整形外科的手術後,脳卒中発症後,胸腹部の手術後の臥床期に生じる深部静脈血栓症は,早期理学療法を行う際には常にその予防,早期発見につとめる必要があり,リスク管理上重要な疾患である.
このように,末梢循環障害への対応は理学療法において大きな比重を占めるにもかかわらず,卒前教育が十分に行われているとは言えないのではないだろうか.教科書の表現だけを見ても,末梢血行障害,末梢血行不全,四肢血管障害,末梢脈管疾患など様々である.これは末梢循環障害(peripheral vascular diseases)を扱う診療科が多岐にわたっていることと無関係ではあるまい.
間欠性跛行を示す患者は,まずどの診療科を受診するであろうか?下肢の痛みが主訴であるから,整形外科を受診するかもしれない.足が冷たくて色調が悪い場合は皮膚科かもしれない.いずれにせよ,迷わず循環器内科や血管外科を受診する人は少ないに違いない.静脈性浮腫やリンパ浮腫はどうであろうか?足がむくんだ時に受診する診療科はわれわれ医療職でも判断に迷ってしまうのではないだろうか.
このような状況はわが国に限ったことではないらしく,Young1)は編著『Peripheral Vascular Diseases第二版』の巻頭の章で,「臨床医は末梢循環障害について知識が十分でない.それは卒前および卒後の医師教育のなかで,脈管医学(vascular medicine)の教育が十分になされてはいないからである」と述べている.確かに解剖学では脈管学を学ぶが,臨床医学では動脈硬化は循環器内科で,末梢動脈閉塞と静脈瘤は血管外科で,静脈炎による皮膚症状は皮膚科で,糖尿病による足部壊疽は内分泌内科で,リンパ浮腫は形成外科で,そして循環障害による切断は整形外科とリハビリテーション科で,といった具合で,臨床医学では脈管の専門科は存在しないのである.逆に末梢循環障害に伴う臨床症状の対症療法全般に関わる科としてリハビリテーション医学は重要であり,この分野で理学療法士が果たす役割も大きいと言えるのである.
本稿では末梢循環障害の成因と病態生理,および一般医学的管理について解説する.
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