特集 認知運動療法の適応と限界
整形外科疾患に対して認知運動療法を実施した一症例
荻野 敏
1
Ogino Satoshi
1
1国府病院リハビリテーション科
pp.941-945
発行日 2004年11月1日
Published Date 2004/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551100594
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整形外科疾患患者の理学療法では,関節拘縮や筋力低下など多くの対象は量的アプローチが主役の座を担ってきた.関節可動域を計測することや筋力を定量的に表すことは,患者のもつ障害を端的に捉え,かつ議論の対象として扱いやすい側面を有している.もちろん近代医学,特に整形外科領域における運動障害の治療は,病態を細分化し,その原因を探ることで進歩してきたことは事実であろう.
しかし,人間が環境の中で生命活動を維持することを考えると,身体を操作して世界を認識する必要があることは否めない.つまり,「腕を動かして物体をつかむ」ことは,まさにその物体の表面素材や重さなどを理解して行為を及ぼしていることであり,「床の上を歩く」ことは,床との摩擦などを理解して運動を遂行していることに他ならない.沖田は,筋や関節に代表される運動器は,運動を行う「実行器官」であり身体を支える「力学器官」であると同時に,自らの身体に関する情報を中枢に伝える「情報器官」でもあると述べている1).情報器官としての運動器が,的確に環境を捉えることができなければ実行器官としての運動器も誤った情報の基で行動しなければならない.運動を正常に獲得するための学習を妨害する要素を特異的病理と呼び,運動の異常を特異的病理による誤った学習として捉える必要がある2).整形外科疾患患者に対して理学療法を行う場合,理学療法士に「情報器官としての運動器」という認識がなければ,この患者の置かれている特殊な状況を理解するに至らない.
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