とびら
行政機関での再出発
中村 達男
1
1荒川区役所保健福祉部障害者福祉課
pp.891
発行日 2004年11月1日
Published Date 2004/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551100588
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地域の障害者通所リハビリセンターから区役所障害者福祉の窓口職場に異動して4年目になる.当然,ここには治療用ベッドもなければ平行棒もない.あるのは,受付カウンターとデスク,電話,パソコン,積み上がった書類の山といった,職員24名のごく一般的な福祉事務所である.窓口は障害者手帳交付,各種サービスの利用申請など,障害者の日常生活に関する相談の来客で毎日混み合う.ここで私は補装具適合や日常生活用具などの生活支援に関する相談業務を担当している.
来客の中には,かつて私が理学療法の臨床現場でかかわってきたケースを見かける.十数年ぶりの再会だ.「ずいぶんと大きく立派になったね.覚えていないかもしれないけれど,幼かったあのとき,泣いて逃げ回りながらリハビリをしてたんだよ.」自分も同じだけ歳とっていることを忘れ,懐かしさとうれしさのあまり,ついついそんな言葉が出てしまう.また,その当初,共に街中を歩いたり,路面電車に乗れるくらいまで歩行機能が回復していたはずの人が,車椅子生活を余儀なくされている現実に直面し,落ち込んでしまうこともある.振り返ってみると,自分は相手にとって真に必要なリハビリを提供していたか,自己満足でやっていたことはなかったか,という念に駆られることもある.しかし,過去の情感に一喜一憂してばかりいてはいけない.ここは,多様な問題やニーズを抱えた住民が訪れる窓口であり,行政の側面から,今起こっている問題を解決しなければならない,重要な役割があるのだ.
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