とびら
「ありがた期リハビリテーション」を目指して
辻下 守弘
1
1広島県立保健福祉大学保健福祉学部理学療法学科
pp.429
発行日 2004年6月1日
Published Date 2004/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551100492
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練習が終わった後,「ありがたい,ありがたい」と合掌までしてくださるお年寄りがおられる.合掌までされると,「そう言ってもらえてありがたい」と反射的に合掌を返してしまう.「ありがたい」とおっしゃるお年寄りは意外と多く,私のリハビリテーションサービスが優れているのかと自惚れてしまうこともある.しかし,残念ながらそういうわけではないようで,お年寄りはすべてのものに対して「ありがたい」が口癖になっている.例えば,おいしく食べられること,子供や孫のこと,世話をしてもらえること,そして一世紀近くも生かされたことに「ありがたい」とおっしゃる.それに,「ありがたい」とおっしゃるお年寄りは,からだが不自由でも元気で,朗らかで,笑顔が絶えない.
発達心理学者のエリクソン(1902~1994)は,人生を8つのライフサイクルに区分し,人間は生まれてから死ぬまで発達し続けると考えた.各ライフサイクルにはそれぞれ取り組むべき課題があり,人生の最終段階である老年期の課題は,「自分の人生を自分の責任として受け容れる」ことである.それは,自分の人生は愛すべき大切なものだと認め,その人生を築き上げたのは自分の責任だと受け容れることに他ならない.自分の人生を愛するということは,その人生に関わるすべてのものを愛しみ感謝することである.そう考えると,すべてのものに対して「ありがたい」と合掌するお年寄りの行動は,人生最後の難題を解決したことの証だといえる.
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