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PTCAからPCIの歴史的変遷
1977年スイスでGruntzigがヒト冠動脈(左前下行枝)のバルーンによる拡張に成功した後,経皮的バルーン冠動脈形成術(PTCA:percutaneous transluminal coronary angioplasty)は欧米で急速に広まり,1979年NHLBIに登録されたPTCA症例は約3,000例に達していた.本邦では4年後の1981年小倉,東京において初めてPTCAが施行された.初期の適応は安定狭心症,1枝疾患,近位部,求心性狭窄病変に限定していたが,冠動脈バイパス手術(CABG:coronary artery bypass graft surgery)に比し低侵襲なカテーテル治療により,重度の狭心症状が即座に改善できるという治療法としての魅力は,循環器内科医の情熱を駆り立て,器具の改良と共に著しい技術の進歩をもたらし,1980年後半には急性心筋梗塞,不安定狭心症,多枝疾患,びまん性,完全閉塞などの複雑病変にまで適応は拡大されていった.
しかし,その一方で5%に生じる急性冠閉塞,30~40%に生じる慢性期再狭窄,50%に存在するPTCA拡張不良病変はPTCAのアキレス腱であり,その安全性を大きく阻害し,低侵襲なカテーテル治療の社会的認知を阻んでいた.1990年代に入り,これらの問題点を解決するべく方向性冠動脈粥腫切除術(DCA:directional coronary atherectomy),レーザー,ロータブレーター,ステントなどのニューデバイスが開発され,臨床評価が開始された.バルーンを対象とした様々なニューデバイスのRCT(randomized controlled trial)が全世界で行われ,有効性と安全性が検討された.DCAは分岐部病変,ロータブレーターは石灰化病変に対してニッチ的役割が証明されたが,バルーンの問題点の多くを解決したのは冠動脈ステントであった.急性冠閉塞はステントの導入により1%未満に低下し,カテーテル治療の院内予後は劇的に改善した.慢性期再狭窄は特定の病変では20%以下に低下し,ガイドワイヤさえ通過できれば,ステントを使用することでほぼ全例に十分な病変の拡張が得られるようになった.このように経皮的冠動脈形成術はPTCA以外にも多くの術式が開発され,現在では冠動脈インターベンション(PCI)と呼ばれており,虚血性心疾患治療の中心的役割を担うことになっていった.
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