特集 脳卒中の理学療法を再考する
脳卒中に対する理学療法の歴史的変遷
吉尾 雅春
1
Yoshio Masaharu
1
1札幌医科大学保健医療学部
pp.669-673
発行日 2005年8月1日
Published Date 2005/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551100143
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
脳卒中に対する理学療法は未だに確立されたものがない,根拠をもって効果を示していない,という評価を社会から受けており,2004年版脳卒中治療ガイドライン1)にもそのまま著わされている.リハビリテーション医療が対象とする疾患,あるいは障害の中で,脳卒中片麻痺の占める割合は非常に高い.それだけに,社会に,特に国家財政に与える影響が大きく,逆に国から与えられる脳卒中の理学療法への統制も強いものになる.脳卒中の理学療法は自然科学的因子に左右されるのはもちろんのこと,かつ社会科学的因子にも左右される.
わが国に理学療法士が誕生した頃,欧米から神経生理学的アプローチが輸入された.その後20年余りの間は脳卒中の理学療法は神経生理学的アプローチに染まったようであった.動作あるいは能力障害や社会参加の障害よりも,機能障害に注目した時代である.つまり,生活を営む社会的動物としての復権を支援することよりも,治療医学モデルに強い関心を示したのである.しかし,残念ながら思うような結果を得ることなく,生活をみることを忘れたわが国の理学療法士は痛烈な批判を浴びた.その後,厚生行政と欧米の変遷の影響を受けながら今に至っている.
脳卒中の理学療法はどうあるべきかを学ぶに当たって,現在の理学療法のあり方についてのみ注目することは危険なことである.自然科学と社会科学の間で苦悩した先人たちがどのようにして今に辿り着いたか知ることこそ重要である.脳卒中に対する理学療法の歴史的変遷から,今後のあるべき姿のヒントを探ってみたい.
Copyright © 2005, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.