今月の臨床 HRTの新ガイドラインを読み解く
HRTの歴史,考え方の変遷
中尾 美木
1
,
久具 宏司
1
,
矢野 哲
1
,
武谷 雄二
1
1東京大学医学部産科婦人科学教室
pp.774-779
発行日 2009年6月10日
Published Date 2009/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409102110
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はじめに
エストロゲンは,脳,血管,心臓,乳房,大腸,泌尿生殖器,骨など多彩な臓器に存在する受容体に作用し,女性の生理機能に大きく影響する.中年期の女性は,閉経前後の時期にエストロゲンが低下することにより月経が停止し,ホットフラッシュや発汗異常などの血管運動神経障害をはじめとするさまざまな機能的あるいは器質的変化を認める.更年期障害により日常生活に何らかの支障をきたす女性は20~30%にのぼる.脂質代謝が悪化し総コレステロールが上昇する.閉経後は動脈硬化が急激に進行し,心血管系疾患の発症が増加する.骨代謝は高回転型となり,骨塩量が減少し骨粗鬆症を惹起するため,脊椎圧迫骨折や大腿骨頸部骨折が起きやすくなる.尿失禁や頻尿,性交痛などの泌尿生殖器障害も多くの女性で認められるようになる.また,更年期にはうつ症状や記銘力低下もしばしば認められる.
更年期を迎えて低下してきたエストロゲンを補充することにより,エストロゲン低下に伴う諸症状を緩和させる治療がホルモン補充療法(hormone replacement therapy : HRT)である.女性の平均寿命が50歳を超えるようになった近代になって,閉経後女性に対するHRTの必要性が認識されるようになった.
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