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近年,腹臥位姿勢は急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)に対する処置法としてよく利用されるようになっている.そして,この方法は,患者の酸素拡散能を向上させる上で極めてシンプルで安全な方法と考えられている.しかし,これが真に臨床的に有効な呼吸機能の改善を引き起こすかどうかという生理学的メカニズムについては十分検討されていない.このレビューの目的は,ARDS患者に対する腹臥位のポジショニングの効果について文献的な検討をすることである.
一般的に,ARDSはX線写真による肺両側に対する浸潤と呼吸器伸展性の減少,小さな肺ボリューム,重症の酸素欠乏によって特徴づけられている.そして,低酸素の是正,呼吸メカニズムと肺ボリュームの改善がその治療目的である.腹臥位で酸素拡散機能が向上する生理学的メカニズムとしては,1)肋骨と横隔膜の構造から腹臥位が横隔膜を平坦化させず,胸郭を前方に引っ張ることがないという呼吸力学,2)肺胞膨張の制限が少なく,換気分布を均等にすること,3)心臓の重量負担が減少し肺全体の容量を増加させること,4)分泌物の排泄を容易にすること,5)心臓が肺を圧迫しなくなることから肺障害の結果生じた換気不全を改善させることができること等があげられる.このレビューで検討した29の文献によれば,1)酸素拡散機能の改善は早期のARDS患者で70%から80%認められる,2)この酸素拡散機能の改善効果は機械的換気後1週間程度で減少する,3)ARDSを引き起こす原因として腹臥位に対する身体反応が影響することもある.したがって,腹臥位にする場合は慎重な配慮が必要である,また,褥瘡の発現率と体位変換数との間に相関がある.ただし,腹臥位でのポジショニングが種々試みられているにもかかわらずARDSの死亡率に著明な改善は認められていない.結論として腹臥位についての標準化された方法が今後の検討課題であると述べている.
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