検査じょうほう室 病理:病理標本に見られる不思議な現象
X染色体のはなし
高山 英次
1
1防衛医科大学校寄生虫学教室
pp.282-284
発行日 2001年3月1日
Published Date 2001/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543905762
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
「なぜ,雌雄(男女)両性が必要か?」という質問に,「子孫を残すため」であるとか「遺伝子の多様性を生み出すため」とかいった,いかにも頭のよい小学生のような答えを聞くことが多いように思う.子孫を残すためであるならば無性生殖(単個体だけからの分裂による繁殖)で,遺伝子の多様性獲得のためであるならば同型配偶子の接合で,あるいは雌雄同体でもこれらの目的は全うされる.むしろ子孫を残すためや遺伝子の多様性を生み出すためならば,無性生殖や雌雄同体のほうが合理的であるかもしれない.なるほど植物では雌雄別個体であるコケ類や裸子植物からより進化した被子植物が雌雄同体である.ところが動物では,脊椎動物でも無脊椎動物でも,それぞれで最も進化的に高等であるとされる哺乳類や昆虫類は雌雄別個体である.カタツムリも雌雄同体とはいえ,2個体での有性生殖(配偶子の接合による繁殖)の際には一方の個体が雌性,もう一方の個体が雄性として振る舞う.魚類では成体になってから性転換する例もあれば,爬虫類では受精後の胚発生過程の環境によって個体の性決定がなされる例も知られる.そして,哺乳類や昆虫類では受精と同時に雌雄どちらか一方の性が決定され,発生過程でこの決定が変更されることはない.動物では進化的高等化に伴って,性がより発生の早い段階で決定する仕組みになっているようである.
Copyright © 2001, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.