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柳田が所属している施設の病院病理部には「免疫染色のプロトコールを作る」専門の部署がある! 新しい抗体を導入するときに多種多様な臓器や症例の切片を,反応時間や抗体濃度などの条件を何通りも試して染色し,「どの条件が最も適切か?」を判断する部署だ.最も重要で,最も労力が必要で地味な作業だが,免疫染色が大好き・大得意な柳田にとっては天国のような部署だ.柳田がいるAI Pathologyラボでは今,この部署がさまざまな条件,さまざまな検体や症例で染色した標本を用いて「染色性の良し悪しや陽性判定を自動で判定できるAIシステム」を構築しようとしており,AIに学習させるための“判定基準”を柳田が作っている.自分の知識と経験からまずは「抗体の性質」「目的の抗原の特徴」「陽性となる臓器・細胞・症例」「陰性となる臓器・細胞・症例」を把握し,片っ端から染色性評価をしていく.その後,病理医たちの判定と照らし合わせ,自分の正確性を確かめる.さらに,過去の標本も借り,病院病理部の病理医たちが「最適な染色性」と判定した染色標本を鏡検し,「陽性所見の色調の強度」や「バックグラウンドの濃さ」などから,病理医たちの“好み”の傾向も分析する……という,柳田にとって“楽しすぎる”ことをしている.
この施設では,「免疫染色変態」を自負している柳田ですら聞いたことのない抗体の染色標本がボコボコやって来る! 柳田のテンションは爆上がりだ.複数種類の抗体の染色評価や病理医の判定傾向の分析を同時並行でやっているため,論文や病理本も読み漁っている.柳田の“免疫染色メモリ”がガンガン増えている! さすが世界トップクラスのがん専門病院だけあって,「染色する目的」が複雑.例えば前立腺癌の悪性度(グレード)の違いで陽性所見の強度が異なる抗体や,正常の扁平上皮では核は陰性,細胞質は陽性なのに,癌になるとそのタンパクが核に移行し(←長くなるので割愛)……癌だと核が陽性,細胞質が陰性になる抗体,あるタンパクを標的にした放射線治療をするために,そのタンパクが発現している組織型と発現強度を調べて治療効果を予測する抗体……など,結果や解釈が複雑で奥が深いっっ! 実に面白い! そして実に楽しい.
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