増大号 匠から学ぶ 血栓止血検査ガイド
5章 疾患まとめ
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)と血栓症
高森 弘之
1
,
西村 純一
2
1東京大学医科学研究所造血病態制御学分野
2大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科
キーワード:
発作性夜間ヘモグロビン尿症
,
PNH
,
血栓症
Keyword:
発作性夜間ヘモグロビン尿症
,
PNH
,
血栓症
pp.1145-1150
発行日 2023年9月1日
Published Date 2023/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543209129
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はじめに
発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)は,PIGA(phosphatidylinositol glycan anchor biosynthesis class A)遺伝子変異による造血器クローン疾患であり,血管内溶血,血栓症,骨髄不全症が特徴的な臨床症状である1).PIGA遺伝子は,GPIアンカー型タンパク質(glycosylphosphatidylinositol-anchored proteins:GPI-APs)の生合成に関与し,機能喪失型の遺伝子変異が生じると,GPI-APsの生合成が阻害される.CD55/59は,赤血球で補体制御の中心的役割を果たすGPI-APsである.PIGA遺伝子変異が生じた造血幹細胞レベルの細胞から分化したPNH赤血球はCD55/59を欠損するため,補体経路の活性化により溶血し,PNHのさまざまな臨床症状を引き起こす.PIGA遺伝子変異により生じたPNHクローンが拡大しなければ臨床症状は顕在化しないが,拡大機序はいまだ十分に解明されていない.
血栓症はPNHにおいて最も重篤な臨床症状の1つである.抗補体薬であるエクリズマブ(eculizumab:ECU)の登場により血栓症のリスクが改善されたことから,補体経路と血栓症の関連が示唆されている2).抗補体薬によりPNHの臨床成績は著しく改善してきているが,それでもなおPNH診療において血栓症は最も注意が必要な合併症の1つである.
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