臨床検査のピットフォール
質量分析装置における同定のピットフォール
服部 拓哉
1
1日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院検査部
pp.784-787
発行日 2023年7月1日
Published Date 2023/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543209039
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はじめに
薬剤耐性菌の蔓延や抗菌薬適正使用の観点から,微生物の迅速かつ正確な同定がますます重要となっている.形態学的および生化学的性状に基づく菌名同定検査は,現在多くの病院検査室で利用されており,結果が出るまでに数時間から数日を要する.16S rRNA解析などの分子生物学的手法は,正確な同定や通常の培養では発育困難な菌の検出には優れているが,手技が煩雑であり,多量の検体を扱う病院検査室での日常運用では現実的ではない.そしてどちらの同定手法も,迅速性が大きな課題である.
マトリックス支援レーザー脱離・イオン化−飛行時間型質量分析(matrix assisted laser desorption/ionization-time of flight mass spectrometry:MALDI-TOF MS)法は,微生物(主にリボソームタンパク質)からスペクトル取得を行い,データベースとの照合により菌名同定を行う手法である.日本国内では,2011年よりバイテックMS(ビオメリュー・ジャパン社)とMALDIバイオタイパー(ブルカージャパン社)の質量分析装置2機種が医療現場で利用されている.本法による微生物同定は生化学物質の反応を必要としないので,わずかな菌量かつ短時間での同定が可能である.これまでの同定手法で課題とされてきた迅速性の問題を解決する糸口となった.
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