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はじめに
組織や体液に存在しているすべての蛋白質を網羅的に解析するプロテオミクス研究は,その解析技術の進歩と相俟って,近年急速に展開している1).質量分析法はプロテオーム解析における最も重要な手法であるが,質量分析計を用いた細菌同定は,1975年にAnhaltら2)によって,ペプチドスペクトルをベースとしたパターンマッチングによる同定が行われた.Staphylococcus epidermidis,S. aureus,Pseudomonas aeruginosa,Neisseria gonorrhoeae,Salmonella sp.,Proteus morganii,P. rettgeriの7菌種の同定が報告されている.
近年,高い迅速性と正確性を有し,しかも低コストの細菌同定手法として,質量分析計が注目されている.2010年から11か国の欧州諸国における,100か所以上の病院・検査センターの細菌検査室で細菌同定のツールとして運用されている.
従来細菌の同定には,主に形態学的手法(グラム染色,コロニーの形状やその大きさ)や生化学的手法が用いられている.しかしながら,いずれの手法も煩雑な作業を要し高い専門性が要求される.高い識別能力がある16S rRNAを指標とする手法は,多くの検体を一度に解析することは難しく,日常的に用いることは困難でありコストがかかる.それに対し質量分析計による細菌同定はサンプル調整が容易で,測定操作も簡便であり,一菌種約6分間で同定結果が得られる3,4).
この特徴を活かして,煩雑な試料前処理を行わず,属や種を容易に識別することのできる手法として注目されている4~8).本稿では本同定方法の原理と当院における臨床応用の一例を中心にして概説する.
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