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はじめに
腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)による食中毒は,1982年に米国でハンバーガーの肉を感染源とした集団下痢症の発生により初めて確認された1).日本における集団事例は,1990年,埼玉県浦和市(現在はさいたま市)の幼稚園で園児の家族を含む319名の集団下痢症患者が発生,そのうち2名の園児が死亡し注目された2).その後もEHECの集団食中毒事例は後を立たず,2011年4月,北陸3県を中心に出店していた焼肉チェーン店で発生した集団食中毒では,181名が発症し,6歳の子ども2名を含む5名が死亡した3).原因物質は牛ユッケであり,翌年2012年に食品衛生法に基づく規格基準の改正により,牛のレバー(肝臓)の生食用としての販売・提供が禁止になったことは一般社会に強く印象づけた事例である.
臨床症状は,腹痛を伴う泥様便,水様性下痢を呈し,その後,血性下痢に変わる出血性腸炎を起こす4).患者の約10%で溶血性貧血,血小板減少,腎機能障害を特徴とする溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)がみられ,時に脳症を発症し死に至ることがある.軽症例では軽い下痢程度の場合や,感染しても無症状の場合もある.
EHECは,感染症予防法で3類感染症に指定されており,診断するには,菌の分離・同定による病原体の検出とベロ毒素(vero toxin:VT)の確認,またはHUS発症例に限り,菌が分離されていなくても便からのVT検出,または血清中のO抗原凝集抗体または抗VT抗体の検出が必要である.EHECは感染力が強く,50個程度の少ない菌量でも感染性をもつといわれており,早期に診断することが二次感染の予防につながる.
そこで,本稿ではEHEC検査におけるO抗原検査と,VT検査のポイントを解説する.
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