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1982年に米国でのハンバーガー食中毒の原因菌として見出された腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic E. coli:EHEC)O157:H71)は,牛などの反芻類が腸管内に保菌するため,解体時に汚染した牛肉や肉製品が主とした感染源になることが多い.また,EHECを含む糞尿による水や土壌等の汚染により,飲料水や様々な農産物の二次汚染を引き起こすため,野菜,果物,ジュース,牛乳など多様な食材がEHECの感染源として報告されている.EHECは重要な食中毒の原因菌であると同時に,100個程度の少数菌での感染が成立する2,3)ために,ヒトからヒトへの二次感染,動物からの感染等を含め,感染症起因菌としても重要な位置づけがなされている.EHEC感染症の病態は無症状の場合から下痢のみで終わるもの,血便を伴い重篤な合併症を併発し死に至るものまで様々である.特に溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)は,EHEC感染に続いて発生することが多く,EHEC O157:H7に感染した10歳以下の子どもでは約15%が発症する危険性があると言われている4).若齢者や高齢者においては十分に注意すべき感染症であると言える.
EHEC感染症に対して様々な予防対策が講じられてきているが,発生動向調査に基づくEHEC感染者の報告数は漸増状態が続いており,EHEC感染症の制御の難しさを物語っている.また,近年の食肉の生食ブームにより,食肉等の生食が原因と考えられるEHEC感染事例が少なからず報告されている.食肉は十分な加熱調理をすることでEHEC感染を予防することが可能であるが,食肉を生食することはEHEC感染リスクを高めることになり,特に若齢者や高齢者は食肉の生食をすべきではない.
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