FOCUS
肺炎球菌ワクチン—その効果と課題
村井 美代
1
1埼玉県立大学保健医療福祉学部健康開発学科検査技術科学専攻
pp.580-583
発行日 2019年5月1日
Published Date 2019/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543207562
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はじめに
フレミングにより1929年に発見されたペニシリンが1941年に実用化されて以来,多くの抗菌薬が発見・実用化されたおかげで,それまで死の病だった細菌感染症の多くが治療可能となった.一方で,抗菌薬の普及に伴い,薬剤耐性菌の出現・拡散が問題となってきた.例えば肺炎球菌では,もともと備わっている細胞壁のペプチドグリカン架橋酵素であるペニシリン結合蛋白のペニシリン作用点に変異が起こることでペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae:PRSP)が出現し,その変異遺伝子は形質転換により種内に急速に広まった.2014年のWHO(World Health Organization)の国際比較調査によれば,肺炎球菌の臨床分離株に占めるPRSPの割合が日本では48%で,世界ワースト1位であった1).肺炎球菌に限らず耐性菌の増加は感染症の治療をより困難なものにしており,このままなんの対策も行わなければ将来的に有効な治療薬がなくなることが危惧されている.
このような状況の解決手段の1つに,ワクチンによる予防接種が挙げられる.ワクチンの歴史は,病原体の実態が解明される以前の1796年,ジェンナー(Jenner)による種痘法までさかのぼるが,この古典的な方法は有効な治療薬の少ない感染症において予防,流行,重症化の阻止にいまなお絶大な効果を上げている.本稿では肺炎球菌ワクチンの現状と課題について概説する.
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