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はじめに
国内や国外に発生する感染症の蔓延を防止するために,各種の法令によって種々の伝染病の保健所長や都道府県知事への届け出が義務づけられている.伝染病予防法によって法的規制を受ける法定伝染病には,コレラ,赤痢(疫痢を含む),腸チフス,パラチフス,とう(痘)瘡,発疹チフス,狸紅熱,ジフテリア,流行性脳脊髄膜炎,ペスト,日本脳炎の11種の疾患が挙げられている.これらの疾患は伝染力が強く,大流行を起こす危険性が高いので,早期に防遏しなければならないし,平常時においても防疫対策が必要である.
近年の伝染病は医療技術の向上,抗生物質の開発に伴う治療面の目覚ましい進歩,保健活動の推進による予防接種の普及と公衆衛生観念の浸透,上下水道など環境整備,さらにはWHOの積極的な伝染病撲滅活動により著しく減少してきた.近年では過去にみられたような伝染病の大流行がなく,小規模化してきたし,中には発生がみられない伝染病も現れてきた.症状が著しく軽症化してきたことも特徴である.伝染病予防法に掲げられているとう瘡はWHOの根絶計画により1979年に地球上から姿を消した.ペストもアメリカ合衆国,南アメリカ,アフリカ,中央および東南アジア,インドネシアなどに森林ペストとして潜在しているが,わが国では1926年(昭和1年)に8名の患者が報告されて以降発生がみられない.発疹チフスもかつては何回かの大流行があったが,1957年の1名の患者を最後に患者発生の報告がみられていない.これに反し,生活水準の向上や海外交流の活発化により伝染病が蔓延する地域への海外旅行者の増加あるいは食生活の多様化に伴い病原微生物の汚染が危惧される輸入食品の増加に反映されて,伝染病も新たな問題として話題にされるようになってきた.
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