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免疫学が近代的な学問としての体系を整えてから,ほぼ1世紀が過ぎようとしている.最初はPasteurの炭疽病や狂犬病ワクチンの開発,あるいはBehring-北里の抗毒素療法など,もっぱら感染症に対する予防と治療を目的とした,いわゆる血清学が中心をなすものであった.しかしながら,免疫反応にはツベルクリン反応のように,陽性者の血清を輸注しても完成されず,陽性者から採取した生きたリンパ球を輸注することによって初めて陰性者を陽転させる反応のあることも,以前から知られていた.現在では,あらゆる免疫現象に細胞が関与していることが明らかにされているが,細胞性免疫(cell-mediated immunity;細胞介在性免疫)といえば,リンパ球のうちT細胞が関与する免疫反応のことを指すのが一般的であり,B細胞系細胞が抗原の刺激に応じて産生する免疫グロブリンが主役を演ずる体液性免疫と区別して考えられている.しかし,今世紀半ばから盛んに行われるようになった免疫機構の解明のための動物実験の結果,体液性免疫機構には鳥類ではFabricius嚢が,細胞性免疫機構には胸腺が働きを示すことや,体液性免疫と細胞性免疫とはそれぞれ独立して機能を営んでいるのではなく,マクロファージや補体などの働きとともに,相互に緊密な作用を営むことによって初めて完全な免疫機能を発揮するものであることも明らかにされてきた.また,免疫機構の解明のための動物実験およびそのために続々と開発された検査手技は,そのまま人間の免疫異常の検索に応用されるようになり,思いがけない病態の発症まで免疫機構の異常としてとらえられる時代となった.
細胞性免疫に働くT細胞の活性としては①免疫応答の調節,②細胞障害,および③生物活性因子(リンホカイン)の産生の三つの範疇に分けて考えられているが,KohlerとMilsteinの開発したモノクローナル抗体の応用は,免疫現象に働くさまざまな細胞を機能別に分画することを可能にし,きわめて詳細な免疫機構の異常をもとらえることができるようになってきた.
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