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はじめに
多くの生物には固有の寿命があり,生物の発生・成長過程と同様に,寿命は個々の生物固有の長さにプログラムされているものと考えられている。このプログラムされた寿命は細胞レベルでも存在しており,多細胞生物の生命を維持するうえで極めて重要なシステムであることが明らかになってきた。すなわち,細胞が過剰になったり,何らかの異常が生じると個々の細胞が自己破壊(自殺)することにより,生体の恒常性が維持されている。この細胞の自殺はアポトーシスあるいはプログラム死と呼ばれている。いい換えれば,生命は死によって支えられているともいえる。
一般に生体は老化すると,免疫系,神経系,内分泌系などの機能が低下すると考えられている。このような老化のメカニズムはまだ解明されていないが,活性酸素を老化源として老化が進行するとしたHarman D (1956)の説,“Free Radical Theory of Aging”が有力視されている。すなわち,体内で形成されてスカベンジャーで処理しきれなかったわずかなフリーラジカルが長時間にわたって細胞や分子を障害し,老化が進行するとする説である。生物は進化の過程において酸素を活用するとともに酸素のもつ毒性(活性酸素)に対する防御システムを発展させてきたが,このような毒性物質による細胞・組織障害の発現機構と老化の発現機構との間には密接な関係があると考えられている。すなわち,一般的に寿命の短い生物は毒性物質に対する感受性が高いことが知られている。一方,生体防御においてはこの活性酸素が殺菌や異物処理に重要な役割を果たしており,活性酸素は生体内で両刃の剣の役割を果たしていると考えられる。
生体防御機構は大きく外界からの異物侵入に対する防御システムと,内部環境の恒常性の維持システムにより構成されている。現在までに生体防御能の加齢変化として報告されているものとしては,1)貧食機能の主役を担う好中球においては,加齢に伴って活性酸素生成機構の障害がみられるばかりでなく,生成された活性酸素を処理する活性酸素消去機構にも障害があることが報告されている。
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