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ミクロな世界を観察する手段として,今まで,光学顕微鏡,電子顕微鏡が知られている.最近,超音波顕微鏡が新しく開発された.光学顕微鏡は光波を,また電子顕微鏡は電子波を情報担体(眼)としているように,超音波顕微鏡は超音波を眼とする顕微鏡である.超音波は古くから,光によって見ることの出来ない不透明物質の内部観察手段として,X線とともに使用されてきている,すなわち,金属探傷機,超音波診断装置,魚群探知機などはその例である.しかし,これらはいずれもマクロ物体観察の例であり,顕微鏡レベルのミクロ物体を観察することは出来なかった.一般に波動を情報担体として使用する場合,分解能は波長より制限される.波長(λ)は波の速度(ν),波の周波数(f)とすると,
λ=ν/f………………………………………………(1)で表わされる.超音波の場合媒体を水とすると,水の音速は1.5km/秒であり,光と同じ程度の波長(0.5μm)を得るためには周波数を3GHzにする必要がある.このような超高周波超音波技術が未開発であったために超音波顕微鏡は,古くから考えられていたが実現されなかった.近年この超高周波超音波技術が進歩したため,光学顕微鏡に並ぶ解像力を持った超音波顕微鏡が実現されるようになった.詳しくは文献1)を見ていただくこととし,簡単に原理を説明すると,高周波超音波(100MHz〜3GHz)をサファイアレンズで集束し,試料を照射する.超音波は試料により反射,屈折,吸収,散乱される.それら超音波の中から反射波を取り出す反射形超音波顕微鏡透過波を取り出す透過形超音波顕微鏡,あるいは位相の違いだけを取り出す位相差超音波顕微鏡が可能となる.画像を得るためには,このスポットと試料を相対的に移動させ二次元走査をし,位置と反射強度,あるいは透過強度をメモリーに記録し,モニターTVで観察できるようになっている.原理的には走査電顕とよく似ている.ただ超音波の場合,電子と異なり良い偏向手段が無く,ボイスコイルとリードスクリューを利用した二次元走査を行っている.そのため画像を得るのに12秒を要している.超音波顕微鏡の特徴をあげるとまず第1に情報担体(眼)が超音波である点である.超音波は電磁波(光,電波,X線〉と異なり,物質の機械的な性質の違いにより影響を受ける.すなわち,弾性率,粘性,密度などの違いによりコントラストがつく.第2に,超音波は比較的多くの物質に対し透過性が良い点である.このことは光学的に不透明な部分も観察できる可能性があることを示す.第3に,光波の場合媒質による光速の変化は2.5倍程度であるのに対し,超音波は10倍以上の物質がある.このことは媒質を選択することにより,光学顕微鏡を上回る解像が期待される.一例をあげると,周波数1GHzの超音波は水中で1.5μm,液体Ar中で0.85μm,液体He中で0.18μmに波長がなる.次に超音波顕微鏡の利用例をあげる.超音波顕微鏡の高解像を示す例として,Quate教授による液体Arを媒体に用いて撮った,人染色体の像がサイエンス(1979−12日本版)に出ている.光学的に見ることのできない例としては,AIコート下のパターンがよく見える.また生物試料などでは,光学的には染色しなければコントラストのつかない透明な試料でも,超音波顕微鏡ではコントラストがつき見ることができる場合が多い.したがって,生きたままの細胞,組織を観察できる可能性は大きい.ただし,高速で試料表面を機械的に二次元走査している今の機械では試料を上手に保持することが困難で,実験的にはまだ確認されていない.いずれにしても超音波顕微鏡の現状は,機械がようやく完成し,今後メーカー,ユーザーの間で,利用方法の開発がこれから始められようとしている状態というのが本当のところと考える.
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