検査の苦労ばなし
思い出づるままに—偶感片々
笠松 重雄
1
1国立予防衛生研究所細菌第2部
pp.842-843
発行日 1978年10月1日
Published Date 1978/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543201721
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過去30年を回顧してみると細部の記憶は定かではないが思い出づるままにペンを執った.途中鮮明さを欠く点は御赦しをたまわりたい.編集担当者の御要望は検査室の苦労ばなしでテーマは一任ということであるが,私としては階級絶体主義に貫ぬかれた戦時中の軍隊生活の中で真実の追求が要求された病理試験室勤務の日々に過ぎるものはない.
私は昭和13年,学業途中で召集を受け近衛師団要員の一人として3か月の短期教育を気球連隊と千葉の陸軍病院で受けた.昭和13年の暮れ野戦予備病院の交代要員として昭和14年の元旦を上海碼頭の倉庫で迎えた.南京の野戦予備病院到着以来約2年間は雑草のごとくあらゆる試練に耐えることを要求された.戦況の膠着化とともに現地に陸軍病院編成が施行された結果,私は鎮江陸軍病院勤務を命ぜられて鎮江に駐屯することになった.当時の病院長は清廉潔白で古武士を思わせるものがあり,業務の分掌についてもよく幹部要員の意見を入れ適切な人員配置を行われた.幹部要員もまた医学に従事中召集を受けた方々で事象の判断についても自由活達な考察を持ち意見の交換を行っていた.
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