DESK・メモ
偶感
遠
pp.539
発行日 1964年7月10日
Published Date 1964/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409203084
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「くさい物に蓋」というが,蓋もつかいようで,何が何でも蓋をかぶせて良いというものではあるまい。時には,くさいのを承知で蓋を払つてやることも大事である。鼻つまみさせるのも,場合によつて良い結末を生む。どちらかといえば,最近では,やたらに蓋をしてくさい物を陰蔽するばかりのように思われるが,いくら蓋をしたつて,くさい物は腐りつづけるだけである。蓋を払つてみる勇気もほしい。
だが,目にみえない微妙なところで,上手にくさい物に蓋をしてみせる術は,趣味の面からみれば不思議に人柄をのぞかせる。何かにつけて露骨にはやりがちな御時世ではあり,惨酷ムードが瀰漫する今日とはいえ,結局無残に醜をさらけ出すことの方が,多少なりともその逆を意図するよりは易しいことなのである。わずかなきつかけを利用して,醜いものをさえ,快い感情にふりかえる,そこに本当の趣味のちからがある。「語是心苗」ともいうが,趣味の深浅はまた心のたたずまいの静かさをはからせる。
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