コーヒーブレイク
寝て暮らせはどうなるか?
pp.808
発行日 1978年10月1日
Published Date 1978/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543201710
- 有料閲覧
- 文献概要
デカンショ節の一節には,半年は寝て暮らす学生生活の喜びがうたわれているようである(多少意味が不明の点もあるが).
ところで,地上で水平になれば体の長軸(頭から足を結ぶ線)については重力の影響はなくなるわけで,朝は背の高さも少し伸びている.更に,いつも体重を支えている足のうらは空間に浮いているので,眠っているときはよく空を飛んだり,崖から落ちる(いずれも足底に地面のない状態)夢をみることになる.更に一歩進めて無重力の世界となると背腹方向の重力の影響もなくなるわけである.宇宙飛行が100日に及ぶ今日では,その生理的影響もよく調べられているが,要するに骨からはカルシウムが失われ,筋肉からはタンパク質が失われ,血液は薄くなり(血清タンパクやヘモグロビンが減少)というように重力に拮抗して体を支える支持組織は薄弱になり,立ちくらみが起こって立っていられないようになる.宇宙飛行の直後に急に地上に立ったら,立ちくらみで失神していまい,とても,お出迎えの奥さんにキスできる状態ではない.地上でも寝かせたうえ水漬けにすると浮力が働いて,無重力の状態が再現できるのでアメリカの宇宙医学の雑誌には"水浸法"のデータがたくさん報告されている.考えてみれば胎児のときも羊水中で無重力状態だったわけで,このときから立って歩くためには1年の努力を必要としたのである.宇宙船の中でも陰圧発生装置の付いたズボンをはいて,下半身に血液を集め,立ちくらみの鍛錬をしたり,自転車を持ち込んで運動したりの対策を考えるようになってきた.
Copyright © 1978, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.