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はじめに
カリウムイオン(K+)の急速な静脈内投与は一過性の高K+血症を起こし,心停止をきたすことは古くから知られている.その理由は,細胞内外のK+レベルの差が小さくなることによって,心筋の収縮に必要な活動電位を起こす閾値を獲得できなくなるためである.
このため,輸液製剤にはK+濃度の厳密な規制があり,K+を静脈内に投与する速度は腎障害のない患者であっても1mEq/kg/hrを越えてはならないとされている1).
一方,輸血用血液製剤の大半を占める赤血球濃厚液は,保存中に赤血球内のエネルギー産生が低下し,細胞内K+の細胞外の流出が生じ,保存期間に比例して血漿中のK+濃度が上昇してくる.2週間以上の保存では20mEq/Lを超えることもある2).放射線照射された赤血球は,その直後から赤血球膜のNa-Kポンプ機構が障害され,単純に保存した場合に比較して,はるかに急速に血液バッグ内の細胞外K+濃度が上昇する3,4).放射線照射後1週間で400mL由来の血液では50mEq/Lを超えることもあり,1袋当たり5~7mEqのK+が含まれることになる.このため,照射血については照射後,直ちに輸血することが推奨されている.
しかしながら,①大出血に対して急速に輸血を行う場合や,②腎不全患者に輸血を行う場合,または,③未熟児輸血を行う場合の3つの状況では,理論上心停止を招く危険性が高いと考えられ,実際に死亡事故も報告されている5~7).そして,急速輸血を例にとってみると,危険とされるK+負荷レベルに相当する輸血は,400mL由来の赤血球濃厚液を1時間に5~10袋ということが決してまれではない.このような理論的危険があるにもかかわらず,以前はカリウムの問題が重大な輸血副作用とは捉えられていなかった.
また,1996年4月から緊急安全性情報によって輸血後GVHD(graft versus host disease)の危険性を回避するために,輸血用血液製剤に対する放射線照射の制限が撤廃されることになった.放射線照射処理によって,いっそう血液バッグ中のK+濃度が上昇することを多くの報告が示していた3,4).
以上のことから,従来よりもK+の除去はさらに多くの機会で要求されるようになることが予想される.また,極限まで輸血の安全性を追求する観点から,稲葉ら8,9)は,輸血によるK+過剰負荷の問題は残された放置できない課題であると考えたことから,2002年2月にカリウム吸着フィルターが誕生し,販売が開始された.紆余曲折を経て,2012年4月に保険医療材料として保険適用とされた.
本稿では,このカリウム吸着フィルターの意義について説明する.
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