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はじめに
わが国における妊産婦死亡は,周産期医療,管理の進歩によって,1990年の妊産婦死亡率8.2人(/出産10万)以降10人以下となり,さらに2006年以降は5人以下となっている.しかしそれ以降,明らかな減少傾向は認められず,分娩出血,産科的塞栓症,間接的産科死亡の主要因である脳出血による母体死亡の低下減少がその要因と考えられる1).また2009年に,福島県立大野病院での分娩時大量出血による妊産婦死亡が刑事事件となり,産科出血による妊産婦死亡が国民の注目を集め,産科大量出血の予防やその対応がクローズアップされてきた.
生命を脅かすような分娩時または分娩後の大量出血は,妊婦の約300人に1人に起こりうる合併症である.一方で,適切で迅速な輸血によりほとんどの妊婦の救命が可能である.大量出血をきたしやすい疾患や病態としては,帝王切開,多胎分娩,前置胎盤,分娩時産道裂傷,子宮破裂,子宮外妊娠などがある.さらに産科疾患のなかには,常位胎盤早期剝離や羊水塞栓症など,比較的早期から播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation,DIC)を併発するものもある.したがって,緊急の大量出血(危機的出血)への対策は,産科管理のなかでも重要な課題である.輸血ストックの量,オーダー手順や出庫管理,院内連携の方法など多くの課題が存在する.現在,わが国の分娩の約半数は輸血部がない小規模施設で行われており,輸血の準備が十分でなく,マンパワーも充足していない状況にある.
このような背景のなか,より安全な周産期管理を目的として,2010年に妊産婦の大量出血に対する輸血ガイドライン,「産科危機的出血への対応ガイドライン」2)が関連5学会(日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会,日本周産期・新生児医学会,日本麻酔科学会,日本輸血・細胞治療学会)により作成された.その中で,大量出血の高リスク症例は高次医療施設での分娩を奨励されており,分娩時大量出血で,ショックインデックス(shock index,SI)1.0以上は,高次医療施設への搬送が推奨されている.
高次医療施設である当院では,数年前から産科危機的出血への対応をより迅速に,効果的に行うために,病棟助産師,輸血部とだけではなく,検査部,薬剤部,ICU,手術部,麻酔科などとの話し合いやシミュレーションを重ねてきた.2010年の「産科危機的出血への対応ガイドライン」の変更も追い風となり,この1年あまりで独自のアクションコードとしての整備を進めることができた.この集学的医療体制を「コードむらさき」と命名し,現在その運用を始めている.本稿ではその「コードむらさき」構築と内容に関して述べてみたい.
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