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はじめに
細菌が抗菌薬などの化学療法剤に対して耐性となる機構は,①抗菌薬作用点の薬剤親和性の変化,②修飾酵素・分解酵素による抗菌薬の不活性化,③細菌細胞表層の変化による抗菌薬透過性の変化,④細菌細胞外への抗菌薬の能動的排出,などに分類できる.多くの場合,多剤耐性化はこれらの要因が複雑に絡み合った結果もたらされるが,このうち能動的排出は,単一の要因によって多剤耐性をもたらす.この多剤の能動的排出にかかわる原因蛋白質が,抗菌薬排出トランスポーターである.特に,作用機序の異なる多種多様な物質を基質として排出する抗菌薬排出系を多剤排出トランスポーターと呼ぶ.
抗菌薬排出トランスポーターは,抗菌薬を含め生体にとって異物となる分子を細胞内から細胞外へと排出する膜輸送体である.薬剤排出トランスポーターは,原核生物からヒトの細胞に至るまで,生物界にわたって存在することが知られている.なかでも多剤排出トランスポーターは全く構造式の異なる種々の薬剤を排出する特徴を有しており,多剤耐性を克服するためにも,排出トランスポーターの機能を明らかにすることが必要であり,このトランスポーターによって認識されないような抗菌薬や阻害剤も複数の研究グループによって進められている.
一方,数多くの細菌ゲノム配列が解読され,細菌が保有している薬剤耐性遺伝子資源の全容に迫ることが可能になった.解析の結果,細菌ゲノム上には抗菌薬排出トランスポーターが数多く存在することが推定された1).また,最近の研究によりこれら抗菌薬排出トランスポーターは細菌の抗菌薬耐性のみならず病原性発現にも関与していることがわかってきた2).筆者の研究室では,排出トランスポーターによる細菌機能制御機構を解明すること,また,新規創薬標的となる排出トランスポーターを同定し,感染症克服の特効薬開発につなげることを目的として研究に取り組んでいる.本稿においては,細菌ゲノムに潜む抗菌薬排出トランスポーターを実験的に同定する方法や,排出活性測定法の技術紹介を含め,細菌多剤耐性化と病原性発現における抗菌薬排出トランスポーターの役割について最近得られた知見を述べさせていただきたい.
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