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はじめに
体内に投与された薬剤は,肝細胞の小胞体に存在するチトクロームP450によって水酸化され,続いてグルクロン酸抱合に代表される反応によって水溶性が高まり,体外へ排泄される.チトクロームP450によって活性型になる薬剤も存在し,最初の薬剤は薬物前駆物質と呼ばれる.薬剤性肝障害とは,薬剤が原因となる肝障害であり,消化器内科ではしばしば遭遇する疾患の一つである.薬剤性肝障害は,発症機序に基づき,薬剤中毒性肝障害と薬剤過敏性肝障害に大別される.薬剤中毒性肝障害は,薬物が代謝されて生じる活性代謝産物が直接作用して発症し,用量依存性で,個体差はなく,肝障害を予測可能である.薬剤過敏性肝障害は,薬剤の代謝産物がハプテン(hapten)となり,抗原として作用し,アレルギー反応を惹起する.薬剤過敏性肝障害は,投与量とは無関係で,過敏反応を起こす個体にのみ発症し,予知は困難である.薬物性肝障害患者の50~70%が薬を服用してから30日以内,90%が60日以内に発症する.
薬剤性肝障害は,後述のごとく,肝細胞障害型,胆汁うっ滞型,混合型に分類される.肝細胞障害型はウィルス性急性肝炎に類似する.胆汁うっ滞型は毛細胆管内に胆汁栓,肝細胞内に色素沈着がみられる.混合型は肝細胞障害型と胆汁うっ滞型の混合である.特殊な薬剤性肝障害として,ステロイド,テトラサイクリンによる脂肪肝が挙げられる.原因となる薬剤は,医療機関から処方される薬剤に限らず,感冒薬に代表される市販薬,さらには民間薬,サプリメント,果ては痩せ薬のような外国の薬剤まで幅広い.サプリメントでは,成分表によると肝障害をきたす成分が含まれているとは思えないものも多い.しかし,添加物,生産過程で他の薬剤の混入などの可能性もある.薬剤中毒性肝障害ではmitomycin,actinomycin D,6-mercaptopurine,5-fluorouracilが挙げられる.過敏性肝障害は,acetylsalicylic acid,isoniazid,indomethacinが挙げられる.肝炎型を惹起するのは,ethanbuthol,tolbutamide,halothane,6-mercaptopurine,rifampicinが,胆汁うっ滞型はallopurinol,chlorpromazine,estradiol,griseofulvinが,混合型はteststerone,sulfonamide,thiouracilが,それぞれ挙げられる.
1999年に日本肝臓学会西部会によって薬剤性肝障害に関するアンケート調査が行われ,2,561例が解析された1).66.9%が臨床症状,12.1%が薬剤によるリンパ球幼若化試験(drug-induced lymphocyte stimulation test,DLST),0.9%が再投与,0.2%が皮膚試験によって診断された.薬剤性肝障害の65%では,初発症状を認める.その内訳は,全身倦怠感,黄疸,食思不振,悪心・嘔吐などである.偶然血液検査で肝機能障害を指摘され,自覚症状が全く認められない症例も多い.
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