- 有料閲覧
- 文献概要
患者取り違えや点滴ミス,誤投薬などがマスコミで取り上げられ,大きな社会問題となり,これらの医療事故防止に医療施設は病院全体で真剣に取り組んでいる.リスクマネジメントという言葉は,医療分野におけるキーワードである.しかしながら,このなかに,“医療従事者を無用な感染から守る”という職業感染予防の重要性は明確に見えてこない.なかでも,針刺し事故は医療従事者にとって,回避することが困難な事象であり,日常的に発生しうるものである.これをいかにして防ぐかが,針刺し事故におけるリスクマネジメントであるのだが…….
“針刺し事故は防止できるのか?”と尋ねられると,もちろん“YES”と答える,ただし100%防止できるわけではない.一方,“日本において現在針刺し事故防止対策は十分に取り組まれているのか?”と問われれば,答えは“NO”である.現在の日本の医療環境で発生する針刺し事故は,起こるべくして起こっている事故であり,適切に対処すれば回避可能なのである.同じ事故でも,自動車事故において運転手や同乗者の死亡率を減らすためにシートベルトが必要であることは誰でも知っている.針刺し事故において C 型肝炎ウイルス(HCV:hepatitis C virus),B型肝炎ウイルス(HBV:hepatitis B virus),ヒト免疫不全ウイルス(HIV:human immunodeficiency virus)などの血液を介する感染症から医療従事者を守るために,針廃棄容器と安全器材が必要であることは,医療従事者であれば誰でも知っている.自動車事故における死亡事故防止にシートベルト着用は法律で決められており,違反者は減点である.ところが,針刺し事故における感染防止に針廃棄容器と安全器材を導入することは,各医療施設の自由意志に任され,明確な法的規制はない.コストがかかるという理由だけで導入されていない施設が多数存在することは事実である.管理者の無知によるのか,それとも無視によるのかは定かではないが…….シートベルト着用義務化のように,あるいは米国のように針刺し事故に関する法的な規制がないと,針刺し事故予防対策は実行されないのであろうか? 針刺し事故後の対処に関しても,事故後の報告が十分に実施されていない現実がある.その結果正確な実態が明らかになってこない.報告しない理由は,“上司に不注意だと怒られるから”,“患者は感染症検査がマイナスだから大丈夫”という根拠のない安心感など,とうてい論理的とはいえない状況である.
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.