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はじめに
従来,「モノクローナル抗体にペルオキシダーゼなどの標識物を標識することは難しい」と言われてきた.それは,モノクローナル抗体ナール抗体そのものの特性に理由がある.抗体の抗原結合部位は,アミノ酸の配列・配置によりその特異結合性が決定されている.このため,その構造は必ずしも強固なものではなく,pH,温度などの比較的緩和な物理化学的作用に影響を受けやすく,抗原結合性の減弱や失活が生じる場合がある.モノクローナル抗体は,その名が示すように融合細胞が産生する単一の抗体分子の集合であり,その抗原結合部位は同一である.抗原結合部位が物理化学的影響を受けやすいモノクローナル抗体では,標識過程での物理化学的影響を受け失活する場合がある.このため,モノクローナル抗体の標識は一般的に困難であると言われている.一方,ポリクローナル抗体は,さまざまなモノクローナル抗体の集合体であるので,物理化学的影響を受けやすい抗体分子からその影響を受けにくい抗体分子が存在しており,通常のペルオキシダーゼ標識過程では結合活性を保持した抗体分子が残存しているため,最終産物には活性が保存されている.実際に,モノクローナル抗体をプロテインAやプロテインGなどで精製する場合,操作過程のpHの変化により中和操作を行っても失活することもある(この場合,より緩和な精製法である硫安塩析,イオン交換法,ゲル濾過法による精製あるいはそれらの組み合わせによる精製が推奨される).
また,各自で標識を入れる場合には,数mg以上の精製抗体,標識試薬,精製試薬などを準備する必要があり,意外に高価で時間がかかるうえ,これらの操作には熟練を要するため,通常の研究室レベルでは実施しにくい技術である.また,受託業者に外注した場合でも,納期は二週間程度かかり,価格は通常,十万~二十万円(抗体10mgまで)と高価である.モノクローナル抗体やポリクローナル抗体へ標識化合物を簡便に導入可能であるなら,操作や実験の手順を簡略化し,二次抗体の影響を排除することができ,さらに多重染色の選択の可能性が広がり測定法の改善が期待できる.
今回われわれは,グルタールアルデヒド2段階法,あるいは過ヨウ素酸法では,失活あるいは著しい活性の低下が見られたモノクローナル抗体を,簡便な手技でモノクローナル抗体が失活することなくペルオキシダーゼ標識できる手法を評価したので紹介する.
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