連載 臨床医からの質問に答える
高カロリー輸液とビタミン B1欠乏
橋詰 直孝
1
,
本 三保子
2
,
五十嵐 紘美
2
1和洋女子大学家政学部
2和洋女子大学家政学部健康栄養学科
pp.1405-1407
発行日 2006年11月1日
Published Date 2006/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543101141
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背景
1967年Dudrickら1)により開発された中心静脈からの高カロリー輸液(total parenteral nutrition,TPN)は,経口・経腸では十分な栄養摂取ができない患者および外科領域における術後患者の治療成績を著しく向上させた.TPN治療が開発されてから30数年になるが,現在,わが国において常時4~5万人以上の患者がTPNを受けているともいわれている.しかし現在,TPNが導入された初期の頃には予想できなかった種々の合併症が報告されるようになった.
TPN施行時における乳酸アシドーシスの最初の報告は,1975年のBlennow2)によるもので,14歳の少年にビタミンB1を添加しないTPNを14か月間行ったところ,ビタミンB1欠乏症であるウェルニッケ脳症(Wernicke encephalopathy)とアシドーシスとを併発していた.その後,内外におけるTPN施行時の乳酸アシドーシスの報告は増加し,しかもこのなかには死亡例が含まれていることが報じられた.事態を重くみた旧厚生省は1991年に,TPN中の重篤なアシドーシスの発現に関する緊急安全性情報を配布し注意を喚起した.当初,その原因は輸液成分にあるのではないかとされたが,症例が蓄積し,そのなかにはビタミンB1を投与することで軽快する例が報じられたことから,これら一連の症例の元凶はビタミンB1の欠乏にあったことが判明した.これを受けて1997年には,TPN中のビタミンB1投与に重点を置いた緊急安全性情報が改めて配布されている.
TPN施行時のアシドーシスの報告数3)は1994年をピークに少なくなっているが,今日でも散見される.
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