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ミトコンドリア病とは
ミトコンドリアは真核生物の細胞内に存在する細胞内小器官であり,細胞内で必要なエネルギーの約90%を酸化的リン酸化によって生成している.ミトコンドリアの内部には,独自のゲノムであるミトコンドリアDNA(mtDNA)が細胞当たり数千~数万コピー存在しており,呼吸鎖酵素複合体のサブユニットmRNAとその翻訳に必要なtRNA,rRNAをコードしている.ミトコンドリアに存在する蛋白質は数千種類に及ぶといわれているが,酸化的リン酸化の中心を担う電子伝達系の蛋白質サブユニットは,核DNAとmtDNAとの両方にコードされており,そのどちらに異常が生じてもエネルギー産生の低下を招くことになる.ミトコンドリアの機能異常に起因する疾患を総称して「ミトコンドリア病」と呼んでいる.このミトコンドリア病は核DNAとmtDNAの両方が原因となりうるが,臨床ではmtDNAの突然変異が原因となっているケースが多い.その理由としては,ミトコンドリアはエネルギー産生に伴い活性酸素種を大量に生じる酸化的ストレスに富む環境であり,内部に存在するmtDNAはその影響から突然変異を生じやすいということが挙げられる.実際,mtDNAの突然変異率は核DNAの十数倍と非常に高いことが知られている.
ミトコンドリア病のいわゆる三大病型として知られているのがCPEO(chronic external ophthalmoplegia),MELAS(mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis and stroke-like episodes),MERRF(myoclonus epilepsy associated with ragged-red fibers)である.CPEOには欠失突然変異型mtDNAが,MELAS,MERRFにはtRNA点突然変異型mtDNAが見つかっている.また3大病型以外にもレーバー病(Leber disease),リー脳症(Leigh encephalopathy),ピアソン病(Pearson disease)などもmtDNAの突然変異によって引き起こされる疾患として認識されている.ミトコンドリア病で症状が現れやすい組織はエネルギー需要が大きい筋組織や中枢神経であり,筋力,運動能力の低下,低身長,痙攣,頭痛,難聴,痴呆などが主な症状として知られている.また,酸化的リン酸化によるエネルギー産生の低下を補うために解糖系が亢進し,乳酸が高濃度になることで著明なアシドーシスをきたすことが多い1).
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