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IgEには中和反応やオプソニン化の機能がない
抗体の主な機能は,病原体や毒素に結合して細胞への侵入を防ぎ感染による傷害を防ぐ中和反応と,細胞外で増殖する細菌や病原体が食細胞に貪食されやすくするために抗体を十分に被覆するオプソニン化である.オプソニン化された病原体は結合した抗体のFc(fragment crystallizable)部分が食細胞のFcレセプターに捕らえられ貪食される(図1).
抗体には4種類のアイソタイプがあり,Ig(immunoglobulin)EとIgDを除くIgA,IgM,および4種類のIgGはいずれも中和,オプソニン化,補体の活性化能を有し生体防衛機構において重要な役割を果たしている.しかし,IgEには病原体の中和やオプソニン化の機能はない(表1).IgEの抗原はアレルゲンと呼ばれ,本来ならば無害の物質である花粉やダニの糞などである.アレルゲンに応答して産生されたIgEはただちにマスト細胞のFcレセプターに結合する.後に同じアレルゲンに暴露されると,アレルゲンはマスト細胞上のIgEのFab(fragment antigen binding)部分に架橋をつくり,マスト細胞はヒスタミン,セロトニン,サイトカイン,ケモカイン,プロスタグランジンD2,ロイコトリエンC4,さらにTNF(tumor necrosis facter,腫瘍壊死因子)-αなどの化学伝達物質を分泌する.化学伝達物質は平滑筋の収縮,血管透過性や粘液分泌などを亢進するためアレルギー性鼻炎,気管支喘息,じんま疹などのアレルギー症状を発症する(図2).なぜこのような生体に不利な免疫反応が生体防衛機構に存在するのだろうか.マスト細胞が産生した化学伝達物質は周辺組織に抗体,好中球,好酸球やエフェクターリンパ球〔細胞傷害性T細胞,B細胞,NK(natural killer)細胞〕を動員し,局所炎症反応を惹起し,外来性異物であるアレルゲンの拡散を防止する.また,平滑筋の収縮は肺や腸管からの異物の物理的な排出(咳,くしゃみ,下痢,嘔吐)に寄与する.したがって,IgEとマスト細胞の作用は他の免疫細胞と同様に体内に侵入してくる外来性異物に対する防衛機構の一部なのである.しかし,生物の進化の過程でIgEとマスト細胞は本来無害である物質に対して特異的に応答するようになったため,われわれから不愉快なイメージを植えつけられるに至ったと考える.最近,マスト細胞にTLR(Toll-like receptor)-2とTLR-4の発現が確認されたので,生体に不利な免疫応答だけでなく,細菌やウイルスの感染防御になんらかの役割を果たしていることが考えられている.
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