入門講座 病理
固定
畠山 茂
1
1東京医歯大病理
pp.355
発行日 1967年5月15日
Published Date 1967/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542916652
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固定とは,組織の死後融解を停止しできる限り生体に近い状態に凝結不溶化して保存観察を可能ならしめる操作をいう。固定液には枚挙にいとまないほど多数の種類があるが,固定主剤になっているものはそんなに多いものではない。固定剤にはそれぞれ特質があってそれぞれの用途に応じて使用せねばならない。たとえば脂肪を染色観察する揚合には,アルコールなどの脂容性物質の入っているものは使えない。一方糖原や核蛋白など水にとけ易いものを固定したい時は,水分を欠くアルコールなどを使わねばならないし,ホスファターゼやリパーゼなどの酵素観察にはアセトン固定が好ましい。結合織や基底膜などの間質組織や下垂体,膵島細胞などの分泌穎粒染色には,クロム塩や昇禾の入った固定液が良く,中枢神経の髄鞘などではクロム塩の入った固定液で保存性が強められる。さらに白血球のオキシダーゼ反応の検索には,中性化ホルマリン固定が酵素活性の維持に必要であり,電子顕微鏡による微細構造の観察にはオスミュウム酸やグルタールアルデヒドなどによる固定が行なわれている。しかし日常の剖検,臨床検査材料の固定にはホルマリン固定を基本にして行ない,個々のcaseに応じて他の固定液をつけ加えて行なっているのが現状である。
ホルマリン固定の時は,37%原液を10倍にうすめて使用する。ホルマリンは濃いほど固定力が強いというものではなく,かえってパラフオルムアルデヒドなどの重合物が多くなって固定力は弱まる。
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