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固定〔fixation,fixing,fixity(英),fixage(仏),fixierung,fixation(独)〕という言葉を一応定義すると,組織学ならびに病理学分野においては人体または実験動物などの臓器・組織ならびに細胞(血球なども含まれる)をできるだけ生前の構造に近い状態を保たせるために固定液に浸漬することである.固定液に漬けることによって臓器・組織・細胞の主要構築成分である蛋白質を凝固させ,酵素や微生物による死後変化(自家融解・腐敗)を停止させて,なまに近い状態を保つことが固定操作の主目的であると思われる.しかしながら,そのほかにもそれらの組織ならびに細胞内の主要構築成分が一定の箇所にそのままの状態にあって移動しないようにするために,組織成分を不溶化または硬化させて保存すること,更には固定液の種類によってはその後の組織切片の作製や染色の目的に適した状態に置くこともこれに含まれる.これには,蛋白質の構築上の所在のみでなく組織化学・免疫組織学的諸検査や酵素染色などではそれらの反応の消長や局在性なども問題となるので,今後は,凍結乾燥法やそのほかの物理学的固定法なども盛んに取り入れられてゆくことと思われるが,筆者に与えられたのは,いわゆるアルコール固定についてであるので,それ以外の固定についてはなるべく触れないでおくこととする.
既に述べたように,固定の目的は組織ならびに細胞の主要な構築成分である蛋白質とそれ以外の各種有機物質を位置的にも構造的にもできるだけ変化させずに固定しようとするのであるからして,臓器・組織の採取,切り出しやその後の操作過程において人工的な諸変化や汚染などを最小限に留めるように努めなければならないし,必要に応じてこれらの化学的ないし物理的変化は対照を置いて比較検討しなければならない.
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