綜説
固定の理論
畠山 茂
1
1東京医歯大病理
pp.243-246
発行日 1967年4月15日
Published Date 1967/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542917144
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はじめに
動植物を問わず生体から切り離された組織は,組織内の蛋白分解酵素や微生物などの作用によって速かに変性崩壊の過程を辿る。これを防いで可能な限り生存状態に近い組織構造および組織化学的活性を保存した上で,観察のための種々な検索操作に耐えうるようにすることが理想的な固定法というべきであろう。
しかし固定の本来の意味が組織の主成分を凝結不溶性にして構造の保持性を良くすることにあり,その結果として染色性を増して観察し易くなるものであるからには,生体に近ければ近い程かえって構造としての把握が困難になるという相反した事実もあるということに注意しなければならない。つまり美しく染色されて良く見えることと自然に近い状態とは厳密には必ずしも一致しないことがあってそこに固定法のもつ一つの限界と弱点があると考えられる。しかし観察目的と手段によっては(例えば酵素組織化学,電子顕微鏡による微細構造の観察),固定法の制約を十分生かした業績が数多くなされている。
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