入門講座 病理
固定—その実際面
内海 邦輔
1
1国立東京第二病院研究検査科
pp.745
発行日 1968年10月15日
Published Date 1968/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542916500
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固定剤の選択
今回は固定の実際面について述べよう。
はじめに固定液の選択についてのべる。染色対象すなわち脂質・糖質・酵素などにより固定剤を変えなくてはならない。脂質に対しては,アルコール,エーテルなど脂溶性固定剤は用いられない。ふつう,ホルマリンが用いられる。オスミウム酸も有力な脂質固定剤で,ことに微細な脂質粒子まで固定染色するので,電子顕微鏡レベルでの脂質証明にも用いられる。糖質は水溶性であるので,ホルマリンは用いられない。アルコール,アセトンなどが用いられ,包埋もパラフィン包埋でなく,ツェロイジン包埋する。糖タンパク質など複合多糖類の場合は,結合しているタンパクが固定されるので,一応どの固定剤でもよい。種々の酵素類の組織化学的証明を行なう際には,固定剤の選択とともに,組織材料切除後,非常にすみやかに(10分以内ぐらい)低温固定する必要がある。人体の諸酵素は,胃中のペプシンを除き,中性または弱アルカリ性で作用し,酸性メジウムには非常に弱く,酵素作用停止,または破壊されてしまう。したがって,アルコール,アセトン,エーテルなどの中性固定剤が用いられる。また酵素反応は嫌気性であるから,組織材料を採取してから,時間が経つとどんどん酵素反応は進行してしまい,せっかく染色しようとする時には,すでに目的とする酵素はなくなってしまうこともある。
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