入門講座 病理
固定—その原理面
内海 邦輔
1
1国立東京第二病院研究検査科・病理
pp.677
発行日 1968年9月15日
Published Date 1968/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542916480
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固定の原理
今回は固定の原理面について述べる。これは検査技術の理解とくふうのうち,理解の基礎となるものである。病理検査における固定の目的の第1は,組織を固めて,パラフィン包埋,ミクロトーム薄切りに向くようにすることである。なお固定が行なわれると,組織細胞の死後変化すなわち自家融解は防止され,また組織標本の染色性が良くなるので,これらも固定の目的に含まれている。このような目的で行なわれる固定とは一体どういうことか。簡単にいうと,細胞原形質はタンパクを主成分とした膠質液で,細胞が生きているときは流動性のゾル状である。これを沈殿させて,非流動性のゲル状に変化させることを固定というのである。もう少し具体的に述べると,ゾル状の原形質内では,分子量の非常に大きいタンパク分子は,その周囲に水の分子を吸着している(帯水という)。この水による浮力と,帯電による相互反撥で沈殿が妨げられ流動性のゾルになっているのである。固定するということは,このタンパク分子周囲の水分子を除去することである。水分子が除去されると,タンパク分子は浮力を失い,同時に水分子の帯電による相互反撥作用も失って沈殿するのである。この状態がゲルであって固定された状態である。
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