技術解説
位相差顕微鏡による血球形態学(1)
中村 宏
1
1日本大学医学部萩原内科教室
pp.482-488
発行日 1965年6月15日
Published Date 1965/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542915765
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はじめに
位相差顕微鏡Phase contrast microscope(PCM)の歴史はまだ新しく,1935年オランダのZernikeがAbbeの顕微鏡像の生成理論(1892)を実用化して位相差法を考案したことにはじまる。その特許をゆずりうけたドイツのZeiss(Köhler u.Loos)で1941年に実用的顕微鏡として完成した。これより2,3年遅れてアメリカで,さらにわが国では千代田光学の努力で1948年に完成した。
血球の観察には,従来から塗抹ギムザ染色法が広く用いられており,今日でも血球形態学の主流をなしている。しかしこれのみでは細胞の微細構造を観察することができないため,近年電子顕微鏡による高倍率の観察が盛んになり,多くの成果をあげている。これらの方法には優れた特色があり,今後も多く利用されるであろうが,欠点としては生物体の死後,しかも人工的な変化を観察していることである。これに対して"PCM"は"自然に近い状態で,生きている細胞を経時的に観察できる唯一の方法"であり,血液学のみならず医学および生物学の広い分野で,その偉力を発揮している。たとえば現在の医学における最大の課題の一つである悪性腫瘍あるいは免疫の問題を解決する手段として有力視されている組織培養は第2次世界大戦後,非常に盛んになったが,その大きな理由の一つは"PCM"の出現によるものである。
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