特集 酵素による臨床化学分析
序
村地 孝
1
1京都大学,中央検査部
pp.1163-1164
発行日 1978年11月1日
Published Date 1978/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542914916
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生命科学の歴史の中で,酵素はまず"酵素作用"の形で認識された.食物の消化がペプシンをはじめとする消化酵素の作用によるという認識は,これらの酵素が物質として認知されるよりはるかに以前のことであった.また,アルコール発酵なる酵母の生命現象が酵母の無細胞抽出液の作用でも起こりうるという発見は,近代酵素学の始まりとみなしうるが,発酵過程を担う諸酵素の単離精製には,なお半世紀以上待たねばならなかった.
J.B.Sumnerが約9年間の苦心の後に,ナタ豆の希アセトン抽出液の中にウレアーゼの結晶を発見したのは,1926年(大正15年)4月29日の朝であったと記録されている.彼はこの正八面体の結晶性単純タンパク質こそが尿素の加水分解という触媒作用を示す本体,すなわちウレアーゼそのものであると主張したが,複雑な生命現象の素因子がそんな単純なアミノ酸の共重合体であるはずはないと信じる一派の人々の受け入れるところとならず,Sumnerの得た結晶はウレアーゼという酵素の担体タンパク質の結晶であって酵素そのものではないという,今日からみれば珍妙な議論さえなされたのであった.やがて数多くの結晶酵素の単離同定とともに,このような観念論は駆逐されてしまうのであるが,これら一連の歴史は,酵素が物質として取り扱われるまでにいかに長年月を要したかを物語っている.
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