今月の主題 ヘモグロビン異常
検査と疾患—その動きと考え方・110
サラセミア症群
今村 孝
1
Takashi IMAMURA
1
1九州大学医学部第1内科
pp.381-388
発行日 1986年4月15日
Published Date 1986/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542912928
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定義
サラセミアは,ヘモグロビン合成能の低下に基づく低色素性小球性貧血,赤血球寿命の短縮,および無効造血などを特徴とする遺伝性溶血性貧血症群であり,その本態はヘモグロビンを構成するα鎖やβ鎖,γ鎖(非α鎖)といった特定のグロビン鎖遺伝子の欠失,あるいは塩基配列の変異に基づくグロビン合成の抑制と,それによってもたらされるα鎖と非α鎖合成の不均衡である1,2).この疾患は,地中海沿岸地域(ギリシャ,イタリア,アフリカ)に多発するところから,ギリシャ語のθαλασσα(海)になぞらえてサラセミア(地中海性貧血,thalassemia)と呼ばれる.本症は地中海沿岸地方以外に,アフリカ大陸,東南アジア(タイ,マレーシア,中国南部)などのマラリア蔓延地域の住民や,ヨーロッパ各地,北米の東洋系,または黒人集団にも多く見られる.また,比較的低頻度ではあるが,世界中のどの民族にも例外なく見られる.
かつて,サラセミアはわが国では皆無であろうと言われたことがあったが,予想外に多く,また重症貧血を呈する症例が相次いで発見されており,臨床的にその診断は重要である.著者らの調査によると,おおかたの予想とは異なり,日本人の軽症βサラセミアの頻度は相当に高く,九大病院を訪れた患者1000名中1名(約0.1%)に保因者が検出された3).また,新生児臍帯血のスクリーニングの結果から,軽症αサラセミアの頻度もこれに近いと推定される.日本のサラセミア報告例を表1に示す.
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