シリーズ・医用基礎工学入門・7
音・2
中山 淑
1
Kiyoshi NAKAYAMA
1
1上智大学理工学部電気電子工学科
pp.810-813
発行日 1985年7月15日
Published Date 1985/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542912619
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1.音波,超音波
前講の最後に生体組織に力学的振動を与えたときの反作用について考察したが,このとき振動のエネルギーは媒質の各部分の慣性による運動エネルギーと弾性による位置エネルギーとに分配され,両者間でやりとりをしながら波動となってだんだん遠方に伝わっていく.媒質に粘性があればこれによってエネルギーが消費されて,波は減衰しながら伝わる.直観的にはバネとおもりが交互に結合されているものを考え,一端にある振動を与えた場合を想定すればよい.一般に固体についてはバネの役割をするのが体積弾性である縦波(圧縮波,疎密波,普通これを音波と呼ぶ)とずり弾性である横波(ずり波)とがあるが,生体組織の場合ずり粘性が大きいので横波は減衰が大きく,遠方まで到達できるのは縦波のみとなる.
普通,可聴周波数範囲(20〜20,000Hz)の縦波を(狭義の)音波と言い,これ以上の周波数のものを超音波と呼ぶ.一般的に医学上利用されている音の周波数は,数KHz以下(心音,呼吸音,Korotokov音など)と1〜10MHz(超音波診断装置,Doppler血流計)とであり,このほかに最近実用段階に入りつつあるのが100〜1,000MHz(超音波顕微鏡)である.生体組織の音響特性として実用的にもっとも重要でかつデータの集積もされているのは1〜10MHzの周波数範囲についてであり,以下これを中心に述べる.他の周波数範囲については理論的に類推できるが,特性の直接的実測が不可能なものが多い.
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