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1918年F.W.Andrewesは,赤痢患者の大便から分離され,少なくとも赤痢の原因と関連づけて考えられていた菌群のなかに,インドール反応陽性,MR試験陽性,V-P反応陰性で,グルコースのはいったシモンズの培地では発育するが,クエン酸のはいったシモンズの培地では発育しないという性状のほかに,尿素非分解,ゼラチンを液化しない点で大腸菌にかなり似てはいるが,運動性がなく,またガス発生がないという点で赤痢菌とも似ている性状をもつ腸内細菌が混入していることを見いだした.いわば,生化学的にはこれらの菌群は,大腸菌と赤痢菌の中間の性状をもっていた菌群ということになる.当時,真の赤痢菌としては,ShigelladysenteriaeとSh.Plexneriの2菌種が知られていたにすぎなかったが,このような菌群をも赤痢菌あるいは赤痢菌群とみなすかどうかは病因学的に重要な問題であった.Andrewesは,これらの菌群が赤痢菌そのものに対する抗血清によって凝集されないこと,酸凝集反応でも真の赤痢菌とは異なってほとんどが凝集すること,またペプトン水でのアルカリ産生の速さやあるいはウサギに対する発病性の違いなどの点から,これらの菌群を赤痢菌とはっきり区別し,このうち乳糖非分解の菌株をBacterium alkalescens,乳糖遅分解の菌株をB.disparと呼ぶことを提案していた.
その後,赤痢菌の性状についての研究がすすみ,血清学的分類が行なわれるようになっても,その生化学的性状の類似性から,前者はSh,alkalescens,後者はSh.disparと呼ばれていた時代もあった.しかし,腸内細菌の生化学的性状がさらに詳しく検討されるようになって,これらの菌群は,(1)サリシン発酵性,(2)muca-te発酵性,(3)リシン脱炭酸反応陽性などの性状を示すことから,生化学的にもこれらの菌群を赤痢菌属として分類することに疑問が生じていた.
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