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1.妊娠中の検査(つづき)
われわれはその他参考になるデータとして唾液中の抗体価を観察している.唾液中の抗体はIgA抗体であるといわれており,IgG抗体である胎盤透過性の抗体とは異質のものであるが,IgG抗体が強いときはIgA抗体も平行して強いことが普通であるので,補助的なデータは十分に得られる.母の唾液を−20℃の冷凍庫の中にいれて1晩放置し,翌日溶解し遠心すると,粘性のある部分は沈降して,上清として,さらりとした透明の液が得られるので,その中の抗Aおよび抗B抗体を測定する.唾液中の抗体が免疫によって上昇するものであるか否かについても賛否両論があり,確定してはいないが,簡単に補助的なデータを得られるので検討中である.
その他A血球にもB血球にも反応するいわゆる交差反応性の抗体がO型血清中にあって,それが新生児溶血性疾患を起こす原因であるという考え方はWiener以来連綿として続いており,これまた新しい息吹が加えられているが,紙面の都合もあるので詳しくは述べない(参考文献1,2参照).それかあらぬか,父親がA型,母親がO型の場合,母親の血清中の抗A,抗B抗体価をいろいろな方法で測定してみると,抗Aのほうが強いはずであるのに抗Bのほうが高い抗体価を示すケースにぶつかることも少なくない.いずれにしろ,抗Aや抗B抗体はいろいろな原因により作られる可能性があり,またさきに述べた新生児(胎児)の防護作用のほかに,たとえ胎盤を通過して児体内にはいっても,いろいろな臓器・組織にある型物質に吸着されることもあり,その全量が児血球に殺到するわけでもないといった事情もあるので,妊娠中の抗体価をあれやこれやとせんさくしてみても,ズバリ確実な診断はつきかねる.そこで一部の人たちからは‘妊娠中の検査無用論’もささやかれている.
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