高級技術講義
ウイルスの血清反応の実際(Ⅰ)
甲野 礼作
1
1京都大学
pp.155-160
発行日 1958年3月15日
Published Date 1958/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542905445
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I.まえがき
ウイルスはその宿主とは異質の特異的なタンパク質分子を主要な構成分としているから一般に良好な抗原である。生体がウイルスに感染した場合,あるいはワクチンの形で生体内にウイルスが接種された場合,宿主はこれに抗体の産生をもつて答える。我々はこれを以下述べるような種々の抗原抗体反応(血清反応)によつて観察することができる。これらの血清反応はウイルスの同定,ウイルス病の診断,また集団における抗体の分布状態の観察などに広く応用される。
ウイルス学領域の血清反応を支配する原則には特に変つたことはないが,ウイルスの本性からくる2,3の制約のあることは忘れてはならない。抗原としてのウイルス粒子を純粋に大量取出すことは,仲々難しいことと,精製ウイルス粒子はさきにのべた様に特異的のタンパク質分子からなつているが,その一部にいれば不可分の構成因子として宿主側から由来する抗原を持つていることである。それ故,大量の精製ウイルスを必要とする凝集反応や,沈降反応は一般に行い難く,ごく特殊の例を除けば実際的の意味はほとんどない。これに反して,少量の粗製抗原でも反応のみられる補体結合反応や中和試験が実際上の応用範囲が広い。
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