特集 臨床検査の新しい展開―環境保全への挑戦
Ⅱ.環境問題と疾病
7.化学物質の環境へのリスク
1)化学物質の安全性
中西 準子
1
Junko NAKANISHI
1
1横浜国立大学環境科学研究センター
pp.1363-1368
発行日 1999年10月30日
Published Date 1999/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542904232
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
安全性論議の前提条件
化学物質の安全性を論ずる場合には,留意すべきいくつかのことがあるように思う.まず,そのことから述べてみたい.
完全に安全な化学物質は存在しないことは,誰もが知っている.にもかかわらず,多くのところで化学物質の安全性が議論されている.ということは,安全性にはレベルがあることが前提になっていることを意味する.しかし,ある人々にとっては安全性にレベルがあることは自明であるが,他の人々にとっては,自明ではない.安全性にはレベルがあると考えている人々の中にも,そのレベルについての違いがある.しかも,安全という言葉の国語的な意味は,あくまでも絶対安全であるから,安全性にはレベルがあるということは,安全性の議論では常に隠されているという構造がある.また,その言葉の中には,よりレベルの高い安全性(より安全)のほうがよいという価値観も隠されている.仮に,化学物質の安全性にはレベルがあり,化学物質の安全性とは,実はそのレベルをどこに維持すべきかを議論することだと考えるなら,むしろ安全性という言葉は使わないほうがよいように思う.リスクは,安全の反意語のように受け止められているが,定義が明確で,科学的な議論に耐える.したがって,安全性の議論は,リスクという概念を取り入れて議論したほうがよい.
Copyright © 1999, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.