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はじめに
脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy;SMA)は,脊髄前角のα運動ニューロンの選択的変性脱落を主病変とする,進行性の下位運動神経変性疾患で,常染色体劣性遺伝形式をとる.下位運動神経の選択的系統的変性の進行に伴って,筋萎縮や筋力低下による呼吸障害をはじめ全身の運動機能障害が生じる.SMAは発症年齢とその病態から,以下の3型(SMA Type Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ)に分類されている.Type Ⅰ(重症・急性型,Werding-Hoffman病),Type Ⅱ(慢性型,Type Iの軽症型あるいはType ⅠとⅡの中間型),Type Ⅲ(軽症型,Kugelberg-Welander病).さらに,30歳台後半に発症する症例を成人発症型(Type Ⅳ)に分類する場合もある.罹患率は北米では10,000人に1人(わが国では10万人あたり3~4人)である.北米における保因者は40人に1人という高率であることから,原因遺伝子の解明および治療法の確立への関心は非常に高い.いずれのサブタイプにおいても,脊髄前角α運動ニューロンの選択的な変性が共通してみられる.しかし,原因物質も変性過程の生化学的情報も全く得られていない.サブタイプ間で病態が異なることから,SMAはそれぞれ異なった遺伝子の変異によると考えられていた時期もあった.しかし,一連の連鎖解析により,Type Ⅰ,Ⅱ,Ⅲのすべてがヒト5番染色体の長腕部(5 q 12-13)にマップされたことから1~8),SMAは単一遺伝子の変異による疾患であると考えられている.1995年,SMA原因遺伝子(guilty gene)としてsurvival motor neuron (SMN)9),neuronal apoptosis inhibitory protein (NAIP)10)の2つの候補遺伝子が同時に単離された.この2つの遺伝子は独立した2つの研究グループ(Melkiら,筆者,MacKen-zieら)がポジショナルクローニング法を駆使して,SMA遺伝子座5 q 13.1領域から単離した遺伝子である.SMNとNAIP遺伝子は物理的に,ごく近傍に位置しているものの独立した遺伝子である.そして,各々の遺伝子にはSMAの発症と強い相関性を示す変異(部分欠損)が見つかっている.SMN遺伝子については,その後の研究にもかかわらず,生理活性や機能についてすべて不明である.
一方,NAIPには広範囲の細胞死(アポトーシス)抑制活性が認められている11).このことから,SMAにみられる運動神経の選択的な変性には,神経細胞に特異的なアポトーシスの抑制機構に異常をきたしている可能性が考えられる.この2つの遺伝子が発見されたことにより,本疾患の原因解明の手がかりができたと言える.本稿では臨床症状を概説し,病因に関しては,SMN遺伝子とNAIP遺伝子について述べる.
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